会社の昼休みに散歩をするのが日課になった。
散歩にちょうどいい距離のところに商業施設があり、そこに入っている本屋になんとなく毎日通ってみることにした。
昼休みに10分ほどさっと店内を一周して戻る。
それを毎日繰り返しているうちに、少しずつ見えてきたことがある。
まず、本のディスプレイは驚くほど細かく、ほぼ毎日変わっている。
すべての棚が大きく入れ替わるわけではないが、必ずどこかに手が入っていて、昨日とまったく同じ状態の日はない。
一方で、変わらない場所もある。
店内のいちばん目につく一等地には、
同じ著者の本が5面ずらっと並び続けていた。
少なくとも一か月は同じ場所にあり、
おそらく、その前から、これからも、しばらくはそこにあり続けるのだろう。
毎日通ってみて思ったのは、
ベストセラーは、ある程度までなら意図して作れるのではないかということだった。
書店の中でもいちばん目につく場所に置き続ける。
一度きりではなく、一定期間その配置を維持する。
すると、それは「何度も見かける本」になる。
繰り返し目に入ることで、
いつの間にか「よく見る本」「売れていそうな本」という印象が生まれる。
その印象が手に取ることへのハードルを下げる。
「みんなが読んでいるなら」という感覚が加わり、
実際の売上が少しずつ積み重なっていく。
そうして生まれた数字と雰囲気が、
「今売れている本」という文脈として定着していく。
その結果口コミやSNSが動き出す。
そして結果として、
ベストセラーと呼ばれる状態になる。
かなり再現性のある流れに見える。
今は、多くの業界で、流行を意図的に作るのは難しいと言われている。
音楽に関して言えば配信が主流になり、
CDを手に取って買うという行為そのものが、ほとんど日常から消えてしまった。
出版業界に関しては事情が違う。
本は、今も「ものを買う」感覚が強く残っている。
ネットで買うことも増えたが、
それでも本屋で、
表紙を見て、手に取り、選ぶことが多い。
棚という物理的な場所があり、
どの本が目に入るか、
どこで立ち止まるかによって、選択は静かに方向づけられる。
電子書籍はあっても、
紙の本の代替にはなりきっていない。
本は触れて選ぶコンテンツとして、今も成立している。
だからこそ、本屋という場所は貴重なのだと思う。
そこには、「手に取り、選ぶ楽しさ」がまだ残っている。
毎日、同じ本屋に通っていたのも、
なんとなくの気まぐれではなく、
そういう場所に自然と引き寄せられていたからなのかもしれない。

