坂本慎太郎の5thアルバム『ヤッホー』が発売された。
今や海外からの人気も高く、期待に比例して上がっていくハードルを今回も悠々と超えてきたように感じる。
曲作りやライブに対して、かなりストイックに取り組んでいる人なのだろう、という印象は以前からあった。
ただ、それをあまり表に出してこなかった坂本慎太郎が、最近は少しずつ言葉にするようになってきた。
「頭のおかしい人がいい曲を作るわけではない。」
このインタビューが話題になったのも、その流れの中にあるように思う。
空想のキャラクターのような存在で、どこまでが本心で、どこまでがキャラクターなのか分からない。
何を考えているのか掴めない、ミステリアスで底が見えない人。
けれど私は、坂本慎太郎の音楽からずっと愛情深さややさしさを感じてきた。
まず前提として触れておきたいのが、ゆらゆら帝国の「ボーンズ」だ。
この曲は、私の中で最高のラブソングである。
抽象的な歌詞だが、恋愛ドラマのラストシーンで時間がゆっくりになる場面が浮かんでくる。
他に何もいらないという、最大限の愛情。
これほどの愛情を曲にできるのは、本当に愛情深い人でなければできないと思っている。
坂本慎太郎に対してよく語られる
「何を考えているのかわからない」「ミステリアス」「底が見えない」
というイメージ。
それは、おそらく私自身も、周囲からそう思われているのだと思う。
分かりやすくて、人が自然と集まるタイプの人を羨ましく思ったことも何度もあった。
そんな前提を踏まえたうえで、
ここからは、ゆらゆら帝国から一曲、坂本慎太郎名義から二曲、
私にとって特に意味を持つ三曲を挙げたい。
まず、ゆらゆら帝国のラストアルバム『空洞です』に収録されている「おはようまだやろう」。
「その人の周りにはいないかもしれないけれど、地球のどこかにはいる」
そう歌ってくれたこの曲は、
自分のような人間が、地球のどこかには確かに存在している。
友達はいるのだと、そっと教えてくれた。
なんとなく寄り添ってもらえた気がして、
一人じゃないんだと、あたたかい気持ちになった。
次に、坂本慎太郎の3rdアルバム『できれば愛を』から「いる」。
この曲では、ただ寄り添うだけでなく、共感してくれる感覚があった。
坂本慎太郎自身も感じている心の内を、少しだけ明かしてくれたような曲だ。
心に沁みて、本当に救われた気持ちになった。
そして今回のアルバム『ヤッホー』。
その中の「時間が動きだした」。
海外でも広く聴かれるようになり、アーティストとの交流も増えた。
その中で仲間ができたのではないか、そんなふうに感じた。
単純に、友達が増えて楽しい。
地球のどこかにはやっぱり友達がいた。
悩むことなんてない、気にしなくていい。
そうやって、明るく手を引っ張ってくれるような感覚があった。
振り返ってみると、
「おはようまだやろう」は、
同じような人間が、どこかにはいると教えてくれた曲だった。
「いる」は、
心の奥にある悩みを打ち明け、寄り添うだけでなく共感してくれた曲だった。
そして「時間が動きだした」は、
立ち止まっていた場所から、外へ連れ出してくれる曲だった。
悩んでいること自体を否定せずに、「まあ行こう」と手を引いてくれる。
寄り添い、共感し、手を引く。
坂本慎太郎の音楽は、段階を踏んで、私を外へ向かわせてくれた。
だから私は、これらの曲を特別なものとして大切にしている。

